Lesson6-4 愛着と社会性の発達

子どもの愛着の発達

子どもの愛着――養育者が一貫した応答繰り返すことで育まれる信頼と愛情――の発達過程について考えるには、Lesson3-1で触れたアタッチメントについて少し掘り下げなければなりません。愛着理論を提唱したボウルビィは、母親と子どもの情緒的な絆の重要性に着目し、発達段階を示しています。

第一段階(出生~12週頃)

乳幼児は誰にでも無差別に微笑みかけたり、声のする方向に目を向けたりします。これを注視行動と呼びます。

第二段階(12週頃~6ヶ月頃)

特定の人物に対して微笑んだり声を発したり、身振りで注目を得ようとします。これを信号行動と呼びます。

第三段階(6ヶ月頃~2・3歳頃)

信号行動に加え、接近行動(子どもの方から特定の人物に近寄る)を取るようになり、特定の他者(母親、父親など)との間に明確な愛着関係が生まれ、それ以外の人間に対しては人見知りをするようになります。

見知らぬ人物・状況に遭遇すると、養育者にしがみついて安全を求めるようになります。このときの養育者を安全基地といい、子どもは安全基地から探索行動に出て少しずつ知見を広げていくようになります。

第四段階(3歳前後~)

養育者の感情を推測し、ある程度は自分の行動を調節できるようになります。親離れとはまた違いますが、ある程度は節度を持って行動できるようになるため、愛着行動も弱まっていくということでしょうか。

愛着の質

愛着の質について調べる方法としてはエインズワースの唱えたストレンジ・シチュエーション法があります。対象となる子どもは1歳前後の幼児で、特定の部屋に幼児を置き、

  • 見知らぬ来場者が入室
  • 母親が子どもを残して退室
  • 母親が再入室し子どもと再会する

これらのシチュエーションについて子どもが取る態度から、愛着の質を見て取ることができます。母親との分離に混乱を見せず再会時にも特に感動しない回避型、他人の存在は気にしないが母親との分離に混乱し再会で安心する安定型、一度母親と分離したら混乱してしまい、再会しても不安が収まらずに怒りを表明するアンビバレント型の三種類に分類できます。

幼児にとっては養育者の存在は不可欠と言って良いものですが、一貫して同じ行動を取る養育者が存在しない状況を母性剥奪状況マターナル・ディプリベーション)と呼びます。乳幼児期に愛着が不足した場合、子どもに情緒障害などが見られるなど、様々な問題を引き起こします。

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1つ補足をすると、施設で育った子どもに似たような問題が見られたため、昔はホスピタリズム施設病)とも呼ばれていました。必ずしも施設の問題とは限らないことが分かってくると、次第にこの語は使われなくなりました。

子どもの社会性の発達

新生児の微笑が無差別に振りまかれる時期から、やがて特定の他者と愛着関係を築き人見知りをするようになるのは上記の通りです。しかし、子どもはいつまでも人見知りをするわけではありません。社会性がどのように発達していくのか、その課程を学んでいきましょう。

視覚的断崖の実験と呼ばれるものがあります。これは乳児を机の上に置き、母親のところまで這っていかせる実験ですが、机には一部ガラスやプラスチックなどの素材が使われて透明になっている部分があり、視覚的には断崖でさえぎられたような形になっています。もしこのとき、母親が不安そうな表情をしていると、子供はそこを渡らずに止まってしまいます。

以上の実験から分かるように、乳幼児は1歳前後になると社会的参照という行動が取れるようになります。他人の表情を手がかりに出来るくらいに社会性が発達しているというわけですね。

2歳以降になり自己主張が見られるようになると、子ども同士でもケンカをするようになります。この時期の子どもたちはまだ自他の区別が完璧についているわけではなく、相手の気持ちに立って考えることが出来ませんが、4歳頃になるとある程度他人の気持ちが推測できるようになります。

詳しい話はサリー・アン課題を参照しましょう。この課題を解けるかどうかが分水嶺となります。

子どもの遊びと社会的な関係性

子どもは2歳頃まで1人遊びをしますが、しばらく経つと他の子どもたちの遊びを傍観するようになり、3歳頃から近くで似たような遊びを行うようになり(平行遊び)、4歳頃になると他の子どもたちとやり取りをしながら一緒に遊ぶようになります(連合遊び)。また、5歳を過ぎると仲間内で役割分担をして遊ぶようになります(協同遊び)。

子どもに性役割の自覚が芽生えるのは3歳頃からですが、5歳頃から集団内のルールなどを守れるようになり、明確に個々の役割を意識し始めます。学校に通うようになると、男の子同士で徒党を組んで危険な遊びをするギャンググループを、女の子同士でいつも一緒に行動するチャムグループを形成するようになります。お互いの異質性や価値観の違いを認め合うピアグループの形成は青年期からの現象です。

社会的な相互作用の利用

前述のように、子どもには段階的に社会性が芽生えます。これを子育てに応用することは可能でしょうか?

答えとしては、もちろん可能です。

ロシアの発達心理学者・ヴィゴツキーは子どもの知的発達を二つの水準に分類しました。「自力で問題解決できる」「解決には周囲の援助や協力が必要」の二つで、この間を「発達の最近接領域」と呼びます。

大人は子どもの発達の最近接領域に働きかけることで、周囲の援助や協力が必要な問題を自分で解決できる問題に落とし込むことができます。たとえば、新生児の目の前でご飯を食べるフリをしたところで意味はありませんが、大人の真似事をする2歳児の前でご飯を食べるフリをすれば、2歳児はその行動を真似して自分でご飯を食べられるようになります。

このように段階を踏めば、子どもは大人との関わりにおいて達成していた行動(精神間機能)を、次第に自力で行えるようになります(精神内機能)。