感情の発達
子どもの感情はどのように発達していくのでしょうか? 発達心理学はこの問題に対する答えを探し続けてきましたが、今のところ完璧な答えはありません。
最も有力なものとして、1932年にブリッジスが提唱した情緒の分化といわれる説とその系統樹図があります。いわく、乳幼児の感情は未分化であり、最初に神経系の興奮のみがあります。興奮は「快」「不快」の2つに分岐し、快からは愛情や得意といった感情が、不快からは苦しみや怒り、恐れなどの感情が生じるとしています。
また、生まれたばかりの子どもはまだ自己意識が発達していませんが、成長するにつれて「自分」と「他人」を区別できるようになります。その発達過程を調べるために、鏡像認知を利用した様々なテストが行われてきました。鏡に映った自分の姿を見て乳幼児がどのように反応するか調べてみたところ、1歳半頃から恥ずかしがるといった反応が顕著に見られるようになります。
自己意識が高まればやがて自己主張やそれに対する自己抑制の発達も促されます。自己主張は4歳から5歳頃までに落ち着きますが、自己抑制は更に2年ほど発達し続けるようです。また、芽生えた自己に対する肯定的な評価のあり方のことを自尊心と呼びますが、自尊感情のコントロールは子どもの苦手とするところでもあります。自己肯定感を大事にして、子どもの話にきちんと耳を傾けるなどの努力をしましょう。
言語の発達
子どもの言語の発達は言語学の領域でも何度も議論されてきました。子どもは生得的にあらゆる言語の基礎である普遍文法を備えている(そのため様々な言語を短期間に習得可能である)とするチョムスキーの生成文法を筆頭に、様々な学説が存在しますが、ここでは乳幼児の発達過程における言語の発達状況をさらっと見ていきましょう。
子どもが初めて発する言語は「産声」ですが、生後1ヶ月頃から喉を鳴らして「アー」という声を出すクーイングが出来るようになります。4ヶ月頃には「あー」「だー」といった喃語を発生し始めます。初期の喃語は1音節の音声に過ぎませんが、生後半年もすれば同じ音を反復する「あっあっ」「ばぶばぶ」タイプの喃語も話せるようになります。
言語を獲得する前の幼児は身振りによって何かをやりとりしようとします。たとえば指差しは身振りの代表的なものですね。これが1歳頃になると言葉を口に出すことも可能になり、「ママ」「パパ」などの意味のある単語を発声してコミュニケーションできるようになります。最初は一語文ですが、半年も経てば語彙も増えて2つの単語を使う二語文も発声出来るようになります。
2歳頃には扱える語彙の量が爆発的に増加し、日常生活においても様々な言葉を使って自分の意思や要求を伝えられるようになります。それから一年も経てば言葉を外にではなく自分の内側に向けて発せられるようになり、独り言を繰り返したり、心の中で思考するための「内言」を獲得します。そうして4~5歳頃になれば、大人のようにとまでは行きませんが、きちんとした言葉を話せるようになります。
認知の発達
発達心理学者のピアジェは認知の発達について研究を行った代表的な人物です。彼によれば、認知の発達とは同化と調節という2つの働きによって世界を認識するための枠組みを変化させていくことでした。世界のあり方に関する理解は、彼の分類によれば四段階に分類できます。
感覚運動期
見聞きして触れるという直接的な感覚・運動体験を通して世界のあり方を認識する力を養います。その際の特徴としては、同じ行動を繰り返して(循環反応)それを複雑化させることにより、やがて行動ではなく目に見えない行為(頭の中で考える)によって問題を解決するようになるようです。この象徴機能の獲得をもって次の段階へと進みます。
ゲームにたとえれば、コントローラーを操作して画面の中のキャラクターの動かし方に慣れつつ、クリアする方法を自分で思いつくようになる、といったところでしょうか。感覚運動期は、おおよそ誕生から2歳頃までの期間となります。
前操作期
前操作期は2~4歳の前概念的思考の段階、4~7・8歳の直感的思考の段階に二分できます。
前者はまだ概念的思考が出来ない頃のことを言います。たとえば、隣の家のプードルを思い浮かべるときに「犬」という概念を使うのではなく、「隣の家のプードル」という個体として思い浮かべるといったものですね。この時期にはごっこ遊び、人形を似た誰かに見立てる遊びなどを通じて「概念化」を学んでいきます。
直感的思考の段階では漠然としたイメージを上手く扱えるようになり、今度は「隣の家のプードル」を「犬」や「動物」「ペット」といった概念と結び付けて考えられるようになります。ただし、この時期には「保存」の概念をまだ上手く理解していません。ですので、丸いもちを平たく伸ばしてみたら「大きくなった」と勘違いするような理解の仕方をします。
具体的操作期
小学校入学から中学年頃、あるいは小学校卒業頃までこの時期が続きます。子どもは「保存」の概念を獲得し、ようやく様々なものを見た目の変化に惑わされずに判断できるようになります。先ほどの餅の例に限らず、コップに入れた水を別の大きさのコップに入れても「同じ量」だと理解できるようになるわけですね。
形式的操作期
小学校高学年から中学卒業頃に、具体的なものではなく抽象的なものについて学んだり考えたりできるようになります。たとえば愛や正義といった形のないものについて考えられるようになるのもこの頃ですし、それから仮説演算的思考も可能になります。
仮説演算的思考とは、たとえばシマウマをたくさん見た経験から「シマウマとは馬のような形をしている白黒の縞模様の動物だ」と考えるようになることです。次に見るシマウマが本当にその定義に当てはまるかどうかはともかく、今までの経験からなんとなく「次」を予測できるようになるのです。