子どもを巡る社会的状況や養護・福祉に関する思想・制度・政策の変遷を見てきたところで、いよいよ児童保育に関係の深い内容に入っていきます。
保育観、発達観について
子どもの面倒を見る上で、まず「子どもというものはどのように成長するのか」を考える必要があります。
子どもの成長・発達に合わせて方針および養育計画を立てるには支柱が必要で、そのために役に立つのが発達観です。どのように発達するかが分かれば、それに適した幼児教育や保育が可能になるからですね。
発達観として代表的なものは、子どもが乳児期→幼児期→児童期……と順を追って発達していくという「階段的発達観」です。エリクソンの発達課題が特に有名ですね。最近ではそこに「子どもの発達は周囲の人間や社会との相互作用の中で進む」「発達のスピードや経路には個人差がある」といった理論的な修正が加わっています。
本講座では子どもの発達を「保育所保育指針」の定める以下の8段階に分けて順次解説していきます。
- 6ヶ月未満
- 6ヶ月~1歳3ヶ月
- 1歳3ヶ月~2歳
- 2歳ごろ
- 3歳ごろ
- 4歳ごろ
- 5歳ごろ
- 6歳ごろ
発達を左右する要素について
子どもの発達を左右するものとして、遺伝的要因と環境的要因があります。この問題は日本でも古くから「氏か育ちか」として親しまれているものです。哲学者ジョン・ロックは「タブラ・ラーサ」の概念を打ち出したりして、子どもは教え込まれるもの次第でいかようにも育つと考えていたようですが、ルソーの消極教育のように氏を重視する考え方もあり、現代に至るまで統一的な見解は得られていません。
この問題について考える上で鍵となるのが一卵性双生児でしょうか。同じ遺伝子を持つ人間ということで、環境要因の違いがどれほどの差異を生むか、という点に着目した研究が、おもに心理学の分野で行われています。
では、今のところ有力な説をいくつか見ていきましょう。
成熟優位説
親とそっくりな姿で生まれてくる動物が、生後数時間で歩けるようになる。この遺伝子に記された運動機能が母胎である程度出来上がってから生まれてくるような、環境問わず遺伝的な形質が発現するタイプの発達を「成熟」と言います。人間の子どもに関しても、遺伝的な形質が自立的に発現したとする説を成熟優位説といい、これを唱えた有名な研究者としてゲゼルがいます。
環境優位説
一方、周囲の環境との関わりの中で様々なものを学んでいくことを「学習」とよび、人間の示す性質などはこの学習によって後天的に形成されるとする主張を環境優位説と呼びます。こちらの説を唱える代表的な研究者はワトソンで、いわゆる「アルバート坊やの実験」で生後11ヶ月のアルバート坊やにパブロフの犬と同じ手法でネズミを怖がらせることに成功しています。
輻輳説
遺伝的要素と環境的要素が両方作用すると考えたのがドイツの心理学者シュテルンです。また、輻輳説を図式化したものとしてルクセンブルガーの図式は、機能によって遺伝的要因と環境的要因の影響がどのように加算されているか示したものですが、これはもともと遺伝病について考えていた図を流用したものと言われており、真相は定かではありません。
相互作用説
輻輳説は遺伝と環境がともに加算されているという少々乱暴な説ですが、相互作用説はその2つの要因が相互作用的に寄与していると考えるものです。有名なものはジュンセンの環境閾値説で、遺伝的要因が発現するためには、ある一定の閾値を越えるような環境的要因が整備されていなければならないというものです。要は、音楽の才能があっても子どもの頃に楽器に触れ合わなければ開花しない、というような説になります。