Lesson5-1 社会福祉に関する基礎知識

社会福祉という概念について

社会福祉という言葉は多義的であり、立場によってその意味が変わってきています。障害者や失業者への手当ての給付などを想像される方も多いでしょうが、実際にはもう少し適用範囲の広い概念です。ここでは社会福祉の理念的な礎となる日本国憲法に記された内容から、その考え方を理解していきましょう。

日本国憲法には何が書かれているか

まず、日本国憲法第11条「基本的人権の保障」、13条「生命、自由及び幸福追求権の尊重」、25条「生存権、国の生存権保障義務」を見てみましょう。

日本国憲法は三大義務の1つとして「基本的人権の尊重」を掲げています。これは法律で定められた権利のように剥奪・制限されたりしないということで、人間らしく生きていくこと、人間として受けるべき保障を誰もが受けられることを確かなものとしています。

生命、自由及び幸福追求権の尊重により、公共の福祉に反しない限り、生きようとする意思や行動は最大限に尊重されるべきであると定められています。また、生存権を保障することで人間が人間らしく生きる権利が保障され、健康的で文化的な最低限度の生活を誰もが送れることを保障しており、それゆえに国は国民の生活を保障しなければなりません。

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これらの憲法上の規定を基本として、社会福祉政策とその援助観が組み立てられています。障害者や失業者、困窮している者、様々な人間が生き延びるためのセーフティネットは、これを根拠に整備されているのです。

社会福祉の考え方

社会福祉を支える考え方は多々あります。基本的なものを押さえておきましょう。

ナショナルミニマム

社会保障の原則の1つであるナショナルミニマムとは、国家が全ての国民に保障する最低限度の生活(あるいは生活水準)のことで、日本の場合は憲法25条を根拠としています。地方自治単位ではシビルミニマムと呼びますが、これは和製英語です。

ノーマライゼーション

デンマークのバンク=ミケルセンが提唱した概念で、障害者も健常者と同様に日々の生活を送れるよう支援すべきである、というものです。障害者の保護は当人の要求よりむしろ周りの都合によるものが多く(施設への強制的な入居など)、そのような状況を改善し障害者の意思が当たり前のように尊重されるべきである、としています。

QOL

Quality of life=人生の質、生活の質などと訳されます。「各自がどれだけその人らしい生活を送り幸福を見出しているか」を尺度として捉える概念で、人間関係や労働環境、住環境や教育など様々な観点から測られています。

ソーシャルインクルージョン

障害者や多国籍者、貧困者などの属性に捉われず、全ての人々を社会の中に包括(=インクルージョン)し、健康で文化的な生活を送れるようにしようという考え方です。先進国では移民や貧困を理由に社会からつまはじきにされる層が増えてきたことから、その解決策として掲げられるようになりました。

現代社会と福祉ニーズの充足方法

現代社会における福祉のニーズは非常に多様化しています。そのニッチな需要の中に適切なサービスで切り込んでいくのが民間企業の戦略と言えますが、実態としてどのような需要があり、どのようなサービスが提供されているのでしょうか。

家庭機能の外部化

もともと家族が担っていた家庭としての機能を、外部にアウトソースしてしまいたい、という需要があります。保育所などの託児サービスはこれに該当します。

家庭機能の社会化

昔は家庭内の貯蓄を切り崩して病人や老人の面倒を見ていましたが、家庭だけでそれを行うのはリスキーなので社会全体で共有してしまいましょう、という考え方です。たとえば年金医療保険の制度がこれに該当します。

生活の私事化

昨今では会社と労働者の関わりが薄くなったといわれますが、若い人の感覚としては、夜も付き合いで飲んだりするのではなくプライベートの時間を確保したい、というのはとても健全な考え方です。子育てや介護に関しても同じことは言えて、若い人が子育て・介護を一時中断して息抜きが出来るようにするための援助をレスパイト・ケアと言い、介護人の派遣やショートステイがこれに該当します。

生活の質の追求

単に病気や虚弱でないということではなく、個人の権利や自己実現が保障され心身ともに良好な状態にあることを意味するウェルビーイングという考え方があります。生活の質の向上やウェルビーイングのために、現代では様々な福祉サービスの充実が求められています。

家族や地域社会との関係の破綻への対応

児童虐待ドメスティックバイオレンスにより深い傷を負い、社会との正常な関わりをなくしてしまう人間をなるべく減らしたい。人権侵害への対応は、新たな福祉のニーズとなっています。

就労環境の改善

ブラック企業の話を良く耳にしますが、現代では労働環境の悪化が問題視されており、就労環境の改善や仕事と家庭生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を目指して様々な取り組みが行われています。

社会福祉の課題

現在の社会福祉は生活の向上や福祉のニーズに対応することを目的としている側面が強いのですが、これはあくまで現在の話でしかありません。将来的には、

  • 社会問題の発生を予防し、持続可能サステナビリティ)な社会福祉制度を構築する
  • 保健や医療、福祉のネットワークを構築し充実させる
  • 地域福祉の推進
  • ノーマライゼーションの具体化

といった目標が掲げられるようになるでしょう。