Lesson2-4 ベビーシッターの事業形態と法的責任

ベビーシッターの事業形態

ベビーシッターとして働く場合は、個人事業主として開業する、ベビーシッター会社に登録するなどの手続きを行う必要があります。前者はフリーランスのベビーシッターとしてご家庭と直接交渉しますが、会社に所属する場合はその会社に来た依頼を請け負うという形になるでしょう。

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実際に個人事業主として開業する場合は、青色申告のための記帳の勉強なども必要になってきますので、ベビーシッターになりたいからすぐ開業します、とはいかないでしょう。もちろん法務知識を学んで1人でも充分に回していけるという自信がついたのであれば、個人事業主を通り越してベビーシッター会社を興しても構いませんが、そこに至るまでの道のりは長いものです。

ベビーシッターのキャリアプランとしては、独立を目指すにせよ目指さないにせよ、やはり資格を取得した後にベビーシッター会社に入社・登録して業務を請け負うというコースが一般的です。その場合は以下の注意点を守る必要があります。

クライアントと取引するのは?

クライアントとの直接的な取引を行うのはベビーシッター会社となります。そこに登録したベビーシッターが、勝手に契約内容を変えたり契約内容にない仕事をお願いされたときに相談なく引き受けたりしてはいけません。ベビーシッター料金の授受も基本的には会社を通して行われることになります。

また、絵本・おもちゃなどの物品を購入する場合は、会社と相談する必要があるでしょう。保育先のご家庭からなにかを借りる場合も、何を借りるかは相談し、場合によっては契約内容に盛り込む必要が生じます。

電気・ガス・水道など保育に必要なインフラを使用した際に発生する料金の支払いに関する取り決めも、契約に盛り込まれる可能性が高いことに留意してください。

秘密保持義務について

ベビーシッターにはほぼ例外なく守秘義務があります。2003年の個人情報保護法制定(施行は2005年)から特に厳密になり、契約が交わされた場合に必ずと言っていいほど盛り込まれる内容となりました。クライアントのご家庭に関する情報は、仕事をしている間に限らず、契約が終わってからも決して口外してはなりません。

ただし、守秘義務にも例外があります。仕事先の家庭で虐待が行われている場合は、児童福祉法第25条にある通告義務に基づき、福祉事務所や児童相談所に通告しなければなりません。通告義務は契約上の守秘義務に優先する、という原則を覚えておきましょう。

珍しい例ですが、クライアントの家庭のことを話したら知り合いが遊びに来た、というケースもあります。クライアントの同意を得ていない限り不法侵入扱いになる可能性がありますので、住所なども決して他人に教えるべきではありません。

競業制限について

日本には職業選択の自由があるので、競業制限というものは個々の事例で判断されるべき問題として扱われます。

たとえば会社員が会社の仕事と競るような副業をすることは禁止されがちですし、ある会社を辞めた後に同じ業種の会社に就職する場合は退職金が減額される、といった事例がありますが、これといった決まりがあるわけではありません。全てケースバイケースです。

ベビーシッター会社によっては競業制限を設ける場所もあり、その場合はノウハウを得てからの退職→独立がスムーズに行かないこともあります。もし独立を考える場合は、会社との契約内容を事前に調べておく必要があるでしょう。

事故が起こった場合

過失責任の原則

ベビーシッターはクライアントの乳幼児を預かり育てる仕事ですから、事故や問題発生は抑えなければなりません。とはいえどのような仕事にもミスはつきものですから、事故が起こった場合に備えて対処法を理解しておく必要があるでしょう。

日本には過失責任の原則があり、ベビーシッター側に故意・過失がない限り責任を負う必要はありません。たとえば子どもの世話を見ているときに地震で家庭内のものが崩れたりしても、それはベビーシッターの責任ではないと判断されます。

逆に過失がある場合、ベビーシッターはクライアントに対して不法行為責任を負うことになります(民法第709条)。ベビーシッター事業者も雇用主として責任を負います(民法第715条)。また、安全に保育を行う義務を怠ったことになりますので、事業者はクライアントに対する契約違反の義務をも負うことになります(民法第415条)。

会社に雇われる場合は雇用側から適切な保険に加入するよう指示があるはずですが、もし独立する場合は乳幼児が怪我をした場合に備えて傷害保険に、そして必ず損害賠償保険に加入しておくようにしましょう。

たとえば、こんな場合を考えてみましょう。

うっかりクライアントの家財道具を壊してしまった

家財道具(物品)の価格に相当する賠償金の支払いを義務付けられることになります。

保育中に乳幼児に怪我をさせてしまった

ベビーシッター側に過失があれば損害を賠償する必要があります。医療費・付き添い費・慰謝料など様々な損害が賠償の対象になりますので、怪我をさせないよう特に注意する必要があります。事故が起こった場合はただちに救急車の手配や医療機関への連絡を行い、クライアントと事業者に報告することになるでしょう。

保育中に幼児が病気になったり死亡した場合

最初から病気であったなど、ベビーシッター側に過失がない場合も存在します。また、家庭での生育環境が悪かったために病気になっていた場合は、仮に過失があったとしても賠償額が減額される場合もありますので、どこまでが家庭の責任でどこからがベビーシッター側の過失なのか、きちんと線引きしておく必要があるでしょう。

たとえば、アレルギー体質の子どもの場合は、事前にアレルギー源を聞いておくなどしておけば、何かがあった際もどちらが責任を負うべきかはっきりとします。ベビーシッターは子どもの身を守ると同時に、自分の身も守らなければならないのです。