飼育と栽培
わたしたちは他の生命によって生かされています。
これはスピリチュアルな話ではなく、ごく当たり前の事実です。わたしたちが普段口にしているものは、基本的には誰かの手で育てられた家畜や植物なのですから。
6歳ごろになると、保育園の飼育当番の活動やアニメなどの影響から、ペットを飼ってみたいと言い出す子もたくさんいることでしょう。余裕のあるご家庭ならそこで実際にペットを飼うこともあるでしょうし、一緒に暮らせば生命について考える機会も増えます。
野菜の栽培に挑戦すると、食への理解を深められます。保育園や小学校の授業で芋堀りなどを実践することもあるでしょうが、もちろん家庭で試みてもよいものです。種を植えてから収穫までの流れを知れば、野菜がどのように育っていくのかも分かり、植物は動物とはまたずいぶんと異なる生命なのだということが理解できます。
この章では、ペットの飼育や野菜の栽培を通して子どもたちが学ぶことについて確認しましょう。
ペットの飼育
5歳、6歳ごろの子どもが「ペットを飼いたい」と言い出すことはままあります。けれど、アレルギーが原因で飼えなかったり、言い出したはいいものの世話をするのに飽きて結局親が面倒を見ることになる、という結末を迎えることも多いものです。もちろん、ベビーシッターが代わりにお世話をする可能性もないとは言えません。
けれど、もし子どもがきちんと世話をしてペットを家族の一員として可愛がるようになれば、ペットの飼育を通じて得がたいものを得ることにもつながります。
ただし、4歳の子どもはペットが死んでも無関心だったのに、6歳の子どもは嘆き悲しんでいたという事例もあるように、子どもの年齢によってもペットの飼育から受け取るものは異なります。最近では小学校入学前後に発達の境目があると考えられるようになっており、そこを越えるとペットの飼育がより深い行為となるようです。
ペットとの愛着関係
これはペット(コンパニオンアニマル)との間に築かれる「愛着」に起因するものです。
- 快適な交流……交流から快適さや楽しさを得る
- 情緒的サポート……ストレスを軽減し気分を落ち着かせる
- 社会相互作用促進……人間関係を取り持つ
- 受容……ペットに受け入れられている実感が持てる
- 家族ボンド……家族間のつながりを親密にする
- 養護性促進……弱いものの命を大切にする気持ちが養われる
ペットとの交流を通してこれら6タイプの愛着が築かれることで、子どもは成長していきます。弱いものを守る気持ちが芽生えたり、ペットを通じて家族や地域社会の大人たちと交流したり、誰にもいえない秘密を共有して心のうちを吐き出したり、可愛い姿やおばかっぽい仕草に癒されたり……これらはすべて、子どもの成長に益するものです。
ペットが死んだときはペットロスに襲われるかも知れませんが、そのときもきっと「死の非可逆性(死んだら生き返らない)」「死の普遍性(全ての生物は死ぬ)」「生命機能の停止(死んだらあらゆることが出来なくなる」)の3つの概念を学んでくれるでしょう。身近な動物の死に触れるのは、死生観を深める上でとても大切なことです。
愛着に満ちた動物飼育から、小学校入学前後くらいの子どもたちは深く影響を受けます。生命と直接触れ合うことは、子どもたちにとってかけがえのない経験となるでしょう。
野菜を育ててみる
ペットの飼育と比べると、野菜の栽培は心理的な負担も少なくて気軽に始められます。毎日プランターに水やりをするだけで成長してくれる植物だってありますし、きちんと育てば収穫の楽しみもあります。種から芽が出てやがて見慣れた植物に成長するのは、子どもの目にも面白いでしょう。
種まきや苗植えでは、まず植物の育成に適した土壌を作ることからはじめます。プランターや鉢植え、あるいは花壇に適切な土を入れ、子どもと一緒に種や苗を植えていきます。この際、植物によっては花の咲く時期や実の成る時期が違うこと、旬の植物は栄養豊富でとても美味しいことなどを教えてあげるといいでしょう。
水やりの効果
子どもに生活習慣を身につけさせるうえで、水やりはとても効果的です。
起床後など毎日決まった時間に水をやることで生活サイクルを形作れば、植物の世話を通じて計画性を成長させたりもできますし、責任感も育ちます。もっとも、経験のある方も多いと思いますが、水やりは三日坊主で終わってしまうことも多いのですが。
かといって、物で釣ったり、「10日連続で水をやり続ければこんなご褒美があります」とするのはあまりいい手ではありません。植物の世話という本質を見失い、ご褒美がもらえるからという理由で水をやるようになるからです。
三日坊主を防止する効果的な方法は今のところ見つかっていませんが、鉢植えをもう1つ用意して毎日水やりする姿を見せるのがよさそうです。子どもは大人の背中を見て育つものですから、存分に背を見せてあげましょう。
観察と描画
小学生くらいになると、授業中に育てたものや身近なもののスケッチを行うことがありますね。夏休みの宿題にも絵日記があり、昔はみな朝顔の観察日記をつけていたものです。
普段から植物の観察日記をつけていれば、こうした課題にも比較的ストレスなく対応できるようになりますし、画力もささやかながら向上します。家で植物を育てるなら、成長過程を記録に残す習慣をつけるのはとても重要なことと言えるでしょう。
もっとも、苦手な子に無理やりつけさせるのは問題です。嫌なことを強制的にやらせたところで苦手意識が身につくだけで、画力なんかちっとも上達しませんし、下手をすると植物を見るだけで嫌になります。確かに記録した絵から微妙な差異を読み取り、「こんな風に色が変わってるんだ」などと実感できるならとても良いことなのですが、苦手意識はそれらを台無しにしてしまいます。
描くのを手伝ってあげたり、描いた絵に見られる葉脈や葉毛について教えてあげることで知的好奇心を刺激したりして、子どもが観察記録をつけるのを楽しめるような工夫をしましょう。
植物がきちんと育って、ころあいになれば収穫です。自分で育てた野菜の甘さを噛み締めましょう。