障害のある子どもの保育と健康
障害のある子どもの面倒を見る場合は、クライアントから細々と注意事項を伝達されることになるかと思います。しかし事前に伝えてもらえるとは限りませんし、クライアント側の障害に関する知識が古い場合もあります。
情報のアップデートを追いかけるにも基礎的な知見が必要、ということでここでは発達障害やその保育に関する基礎的な知識を身につけましょう。
発達障害とは
発達障害とは自閉症、アスペルガー症候群、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害、チック障害など、生まれつき中枢神経系の一部の機能に持続的な障害が生じた状態のことです。
子どもの心の障害は心因性の疾患としてではなく、発達障害の結果として生じることも多く、また心の障害は知的障害を伴う可能性があります。たとえば学習障害の子どもはそもそもADHDであったり、自閉症の子どもが知的発達障害を伴うのは決して珍しくはありません。
多動性障害(ADHD)や学習障害(LD)、コミュニケーション障害、チック障害、排泄障害など様々なものがありますが、日本ではアメリカ精神医学会の定めた指針であるDSMを参照し、その呼び名で分類するのが一般的です。それぞれについて見ていきましょう。
精神遅滞とは
一般的な知的機能が有意に平均より低い状態のことを精神遅滞といい、IQによって軽度(50~75程度)、中度(35~50程度)、最重度(20未満)に分けられます。原因としては、先天的要因なら染色体異常から来るダウン症や自閉症、後天的な要因なら感染症や栄養異常、幼少期の生活環境の不備によるものなどが考えられます。
注意欠陥/多動性障害(ADHD)とは
多動性/注意障害/衝動性などの特徴が見られ、7歳までに症状としてあらわれます。ADHDの子どもは学童期では全体のおよそ3~6%と言われ、男児が8割を占めていることなどが特徴として挙げられるでしょう。ADHDの子どもは集団生活を送るのが苦手であり、家庭や教育現場の支援を必要としています。
学習障害(LD)とは
LDはLearning Disabilitiesの略称で、知的能力や家庭環境に問題がないにも関わらず年齢相応の学習が困難な子どものことをいいます。障害は読み書き計算や言語能力といった学習の基礎的な部分に現れるため、より深い学習を行うのも大変ではあります。発症率は3~6%で、ADHD同様男児に圧倒的に多く見られますが、ADHDと違って行動面にはあまり問題がありません。
広汎性発達障害とは
自閉性障害(自閉症)とアスペルガー障害の2つです。
自閉症は1943年の医学者カナーの報告に始まり、以後様々な症例が集められ、生後30ヶ月までに現れること、女児より男児の方が圧倒的に多いことが明らかになりました。脳障害を背景とする発達障害の一種と考えられ、外の世界との関わり方や世界の見え方が常人とは大分異なります。教育プログラムや生活習慣の改善によってある程度は落ち着いてすごせるようになりますが、完治するものとは考えられていません。
一方、アスペルガー障害は1944年にアスペルガーによって紹介された事例から始まるもので、対人関係障害や情緒障害、知能的な遅れ、特に言葉の遅れに問題があると見られています。といっても言語の発達ではなく、むしろ他人との共感的な情緒交流やコミュニケーションに問題が見られがちです。
精神障害とは
統合失調症、うつ病など様々な症状があり、原因も様々です。不安やストレスといった心因、遺伝的要因、アルコールや薬物中毒といった外因など、何が原因で精神障害が引き起こされるかは分かりません。
子どもに特有な病気ではなく、大人も精神障害にかかります。罹患者は全国で4500万人以上と推測され、大人でも4人に1人は1度以上精神障害にかかったことがあると言われています。
心因性疾患とは
心理的な要因によって様々な疾患が引き起こされます。主要な疾患を紹介しましょう。
心身症
心身症とは心理的要因(ストレスなど)が原因で身体障害として現れるもののことを言います。小児科では小児喘息や睡眠異常、チックなどを取り扱っていますが、ケアするには心と体の両方から対処する必要があるため、原因をきちんと潰さなければなりません。
症状としては、爪を噛んだり指をしゃぶったりするのが有名ですが、顔や首・腕の筋肉が急に引きつるチック、母親を独占しようと赤ちゃん返りすることで生じる夜尿症も心因性の可能性があります。
反応性愛着障害
養育者との間に愛着関係を上手く築けなかった場合、他人とも上手くコミュニケーションが取れなくなる可能性が高まります。
不安障害
パニック障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害など、不安とそこからの回避行動を特徴とする疾患群を不安障害と呼びます。薬物療法や認知行動療法、カウンセリングなどで治していく必要があるでしょう。
他にも症状としては、分離不安障害(愛着のある人と離れるのを極端に不安がる)、強迫性障害(強迫観念が繰り返し浮かんでは消える)、悪夢障害(ひどい夢体験をする)、パニック障害(突如不安に襲われる)などがあります。
睡眠障害
睡眠中の発作やナルコレプシー(通常ありえない状況で耐え難い眠気に襲われて意識を失う、通称眠り病)、夢遊病などの睡眠障害が発生する可能性があります。
摂食障害
大人にもある病気ですが、神経性の問題で食事を拒んだり大食いになったりします。男性より女性に見られやすい現象で、体重が落ちることによる思考力の低下が見られます。治療方法としては、薬物療法やカウンセリングが有効です。
解離性障害
自己同一性を失って自分が誰だか分からなくなったり、複数の自己を持ったりする障害です。前者は記憶喪失として有名な解離性健忘、後者は多重人格などがあり、虐待の記憶を封じるためにそのような人格が生まれることがあります。
内因性疾患とは
生体内部に潜む要因によって反応し、引き起こされる疾患です。
意識は明瞭で知的能力もあるものの、幻覚や幻聴、妄想などが出現する統合失調症が有名です。また、急激な気分の高揚や抑うつを特徴とする気分障害(うつ病や躁病)もこの内因性疾患の一種です。
障害児保育で必要なこと
大事なことは子どもの個々の症状とその特徴を把握すること、そして一緒に成長の出来る支援体制と環境を作り上げることです。クライアントから子どもに関する大事な情報を聞き出し、世話をする対象に合う方法を適切に選ぶのが大事です。
障害を抱えた子どもは、重度の症状の持ち主ほど自分の症状を軽く見て、逆に軽度であれば深刻に捉えてしまうという傾向にあります。バランスを是正し、本人や保護者に現状を正しく受容させ、適切な行動を取れるようにするのが大事ですが、そう簡単に実践できるものでもありません。
2004年の発達障害者支援法、2010年の障害者自立支援法の改正(発達障害が障害に含まれた)など、障害に対する理解はゆっくりですが着実に進んでいます。将来的に状況が好転すると信じ、自分に出来ることをするようにしましょう。